奥の細道の紀行文


by pxk11571

奥の細道 35日目 勝木ー瀬波温泉

2008年5月21日(木) 勝木―瀬波
晴れ、風強い。湿度低い。

 本日のルートは、まず、海岸に出て、国道345号線(R345)を一路南下し、村上市の西の海岸にある瀬波温泉を目指す。芭蕉は勝木から山に向かい、葡萄峠を越えて村上に出るルートを取っている。しかし、今回は勝木から村上まで海岸線を歩き、村上まで出ることにする。今まで、何回か酒田と新潟の間の海岸線を電車で通ったが、ここの景色がそれは素晴らしく、どうしてもこちらのルートを歩きたくなったのがその理由である。
本日、明日は、この海岸線の景色が楽しみである。

 5時半起床。出発の準備。
 6時40分、朝食。
 チェックアウト後、7時5分ごろ勝木駅前の長浜屋旅館を出発。
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 昨日の雨が嘘のようで天気は快晴だが、風が強く、体感温度的には肌寒い感じである。
 出発してすぐ海岸に出ると、目の前に鉾立岩が迫る。堂々たる山のような岩であるが、南下していくと、このような切り立った大岩にあちこちで出会うことになる。
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 この立岩を回り込むと、寝屋漁港に出る。
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 山が迫り、農業のスペースもなく、漁業しかなさそうな地形である。
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 ここの漁港には、
   夕映えの港町 寝屋
という看板が立つ。ここから先の集落には、このようなキャッチフレーズが付いている。
 この町はずれに鵜泊トンネルがある。歩道はあるが、幅50cmと狭い。
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 このトンネルを抜けると、鵜泊の小さな漁港がある。この集落のキャッチフレーズは、
   火の神の里 鵜泊
 この漁港は山が迫って平地が少ないため、バイパスを作るスペースがなく、ここでも漁港の上にオーバーブリッジを作ってあるが、このオーバーブリッジには歩道がない。ここを回り込むと、新潟まで92km、村上市街33kmの表示がある。本日の行程と3日後までの行程が頭をよぎる。
 ここで感じるのが、一昨日までの海岸の岩石の質がこの辺りは若干異なるということである。一昨日までは海岸の岩石は砂岩的で何となく柔らかい感じを受けたが、本日見る岩石は硬い印象を受ける。
 ここで一句。
    荒海の 磯を楽しむ 桐の花 (元夫)
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 鵜泊からしばらくは山が迫り、民家がほとんどない。落石除けのシェルターを2つ抜けるが、歩道はない。ただ、通行する車が少ないので助かる。
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 昨日一日休んだため、今日は足が軽い。
 芦谷(あしだに)入口の表示を過ぎると、寒川(かんがわ)の集落に入る。
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 ここのキャッチフレーズは、
    白砂の里 寒川
 ここに来て、ようやく人家がある場所に来た気がする。白砂の里とあるが、砂浜は狭い。ここも狭い浜をテトラポットで必死に守っている。ここから歩道があり、歩き易くなる。
 この辺りから、笹川流れの景勝が始まり、10km以上にわたり、素晴らしい海岸の景観が楽しめる。
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 8時半頃、葡萄川にかかる寒川大橋を渡るが、日射しのせいか少し暖かくなる。越後寒川駅を通過し狐崎を回り込み、
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倉の沢橋を渡り松陰隧道を抜けると、脇川集落に入る。キャッチフレーズは
    蓬莱の里 脇川
 これは、集落のはずれにある国道の海側に聳える蓬莱山に由来すると思われる。ここから歩道がなくなる。
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 ここも漁港で、脇川大橋というオーバーブリッジがかかる。
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 集落のはずれの沖見橋を渡り、歩道がある短い蓬莱第2隧道と第1隧道を抜けると、大きな岩が磯からほどほどの距離に点在する景色のいいところに出る。なぜか、ここは岩にも磯にもウミネコが沢山休んでいる。魚が多いのであろうか。
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 この辺りは砂浜がやや広いが山が迫っており、人家を建てるスペースがなく、無人の浜である。さらに30分ほど進み、短い宝屋(ほうや)隧道と退込(ねこみ)隧道を抜けると小さな砂浜に出る。この浜は、道路脇にテトラポットが沢山積まれているが、海中にはない。潮の流れのせいだろうか、それとも海水浴場として使われないからであろうか。しかし、この辺りもきれいな海岸線である。
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 さらに10分ほど行くと、ようやく人家があるところに出る。今川集落である。ここのキャッチフレーズは
    山北町 民宿発祥の地 今川
 ここにきて国道に歩道が設置されるようになり、一安心する。この今川浜は海水浴場になっており、きれいな砂浜が続いている。
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 この砂浜の南の端近くに
    としがいもなく 砂浜を駆けてくる
と書かれた大きな石碑が建つ。大野風柳という人の川柳らしいが、どういう人かは不明である。しかし、定年を機に奥の細道を歩くという道楽をしている身には、なにか引っかかるものを感じる。
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 今川浜のはずれに弘法トンネルがある。
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 このトンネルは新しく見え、照明用のランプは充分あるが3つおきにしか点灯されていない。カーブしているため、トンネル内が暗くて歩きにくく、照明を暗くしている理由が分からない。予算の関係だろうか?
 ここを抜けると板貝集落に出る。ここのキャッチフレーズは
    さいの神の里 板貝
 これは全く訳が解らないキャッチフレーズだが、その先に進むとわかることになる。
 ここの浜は狭いが、テトラポットは南半分にだけ設置されている。
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 この狭い浜に、立派な石碑が建つ。
   少年の視野 渺々と 浜続く   菅原孝之助
と書かれており、先ほどの大野風柳の名が、碑建立の委員長と書かれていた。菅原孝之助は、この地で独特の境地の川柳を広めた功労者のようである。
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 その碑のすぐ先に板見橋という小さな橋がかかり、その橋の袂に、板貝さいの神の案内板と、長さ2m、太さ30cmはあろうかと思われる松の木でできた男性のシンボルをかたどった巨木が飾られている。これが、さいの神のいわれである。
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 板貝のさいの神のいわれについては、案内板に次のように記されている。
 板貝では、毎年小正月に正月の松飾などを収める際に、その日、共有林から切り出した松の木から一刀彫りでご神体(男性のシンボル)を作り、お供えするとのことで、参拝者はその年の願をかける。この行事の発生時期に関しては、この集落が発生した1300年頃ではないか。参拝者は良縁に巡り合い、子宝、安産、子孫繁栄に恵まれるといわれ、毎年、多くの参拝者で賑わう。
 まもなく10時半になろうという頃、神宮沢第1、第2、第3隧道を続けてくぐる。短いが明るい照明がついており、気分よく歩ける。このトンネルとトンネルの間の狭い入江は、きれいな青い海、巨岩と青松からなる景観に恵まれ、この世とはかけ離れた別天地という雰囲気の場所で、しばらくここに佇み景観を堪能する。
 その先の炭沢隧道を抜けると、アカタビラ隧道と書かれたトンネルに入る。普通こう書かれていると、トンネルの反対側には同じ名前を漢字で書いた名板があることが多いが、ここの出口にはカタガリ松隧道と別の名前が掲げられている。これは一体どういうことなのだろうか。
 この辺りは素晴らしい景色が続くが、この海辺には名の付いた奇岩が揃っており、独特の景観を形作っている。道路際にこぎれいな展望台風の公園がある。ここは、眼鏡岩海岸の展望台で、ここの説明文によると、笹川流れという名称は、沖合の岩の間を盛り上がるようにして流れる潮流をその中心地である笹川集落の名を冠して呼んだものと伝えられるとのことである。
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 この脇に、頼三陽の孫である頼三樹三郎の記念碑が建つ。
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 このそばに、新潟まで79km、村上まで21kmの表示がある。
 滝の尾隧道、ニタコ間隧道を抜けると、
  笹川流れ発祥の里 笹川
のキャッチフレーズを掲げる笹川の浜に入る。この浜は、テトラポットがない小さな浜である。笹川橋を渡り、塩置場隧道という面白い名前の付いた短いトンネルを抜けると桑川漁港があり、その先はテトラポットだらけの砂浜が続いている。ここのキャッチフレーズは
   水と緑と魚の里 桑川
 ここから10分ほど進むと、笹川流れ遊覧船乗り場がある。風が強いせいか残念ながら客がおらず、舟による遊覧は諦める。
 ここから15分ほどのところに、国道を挟んで山側にJR羽越本線の桑川駅と海側に道の駅笹川流れがある。ここの海辺には、すばらしい遊歩道と、快適なベンチが設置されている。天気も良いし、目の前の海も素晴らしいので、ここで旅館のおばさんが作ってくれた大きなおにぎりをかじる。ここで40分ほど休憩し、12時少し前に出発する。
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 この浜辺の遊歩道は、1994年に設置され、「なぎさの小道」と名付けられている。この小道は、ハマナスが満開で、華やかな雰囲気である。
 10分ほど行くと、鳥越の岬に着く。ここは、マルバシャリンバイの白い花が満開である。ここまで来ると、山のたたずまいも穏やかになり、平地も増えて、今までとは違い平らな広がった感じを受ける。桑川橋を渡ると
   ハマナスの里 浜新保
に入る。ここは直線的な砂浜で、一部は海中にもテトラポットが設置されている。この浜の南半分はコンクリートで補強されている。
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 ロマンチック夕日海道 345 
   瀬波、笹川流れ、粟島、県立自然公園
の表示も現れる。
 ここで1句
    ハマナスと 荒海の磯を 一人旅 (元夫)
 浜新保の浜の南端に鳥越山という名の大岩があり、その麓に佛願寺八大龍王の由来が書かれた案内板が建ち、その脇にハマナスがきれいに咲いている。
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 その海側の荒波が洗う山裾に、案内板に書かれた岩窟がある。
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 12時半頃、鳥越山脇の鳥越トンネルを抜けると日本海夕日ラインの表示があり、村上市に入る。勝木から17km、村上まであと17km、3時間半でゴールかと考える。
 風は相変わらず強く、道路脇まで波が来るこの辺りは、歩いていても波のしぶきがかかる。
 ここから10分少々で馬下 (まおろし) 大橋にかかる。ここは山が海まで迫っており、JR羽越線と国道345号が共存するのが大変厳しいところで、国道が遠慮して海側にせり出して回り込む橋をかけている。
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 この先に、この難所だけあって景色の良いところを眺めるために作られた駐車場に、この場所がひと昔前は、最大の難所であったという案内板が設置されている。
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 この先にある馬下隧道を抜けると、馬下漁港とそれに続く馬下海水浴場がある。この漁港に折から7人乗りの漁船が漁から戻ってきたため、しばらく魚の陸上げを眺めて休憩する。
 馬下橋を渡り、馬下の浜を眺めると、起伏に富んだこの砂浜を水中と浜の両方でテトラポットによるガードをしていることがわかる。
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 この浜を過ぎると、しばらく比較的平たんな浜が続く。ここで1句。
   荒海の 磯路はどこも 桐の花 (元夫)
   ハマナスの 海の向こうは 大地震 (元夫)
 1時15分頃、早川を渡るが、ここまで来ると浜は岩が少なく、山と浜の間隔も比較的広くなる。奇岩の景勝地はもう終わった感じである。
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 ここの集落で旧道に入り、山を眺めると
   桐と藤 緑の中で 競い合い (元夫)
という感じを受ける。
 越後早川駅の付近は、薄紫の花の紫蘭が多くなる。
   紫蘭咲く 庭の向こうは 日本海 (元夫)
 吉浦町の南のはずれで、国道に戻る。道の両側にスカンポが目立つようになる。 
   懐かしい スカンポ見ると 唾液湧く (元夫)
 この辺りは浜が穏やかなため、柏尾、間島、野潟などの海水浴場が続く。
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 大月の浜を過ぎると、道は緩い登りになり、振り返ると大月の浜が見渡せる。
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 前方には、岩ヶ崎の浜と集落が見えてくる。
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 雪避けの囲いを構えた社殿の伊須流岐(いするぎ)神社を過ぎ、右の脇道の坂を下ると、山を背負った海岸にある最後の集落である岩ケ崎に入る。
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 ここを通過し、再び町はずれの坂を上ると、村上市中心部が一望にできる丘の上に出る。足元には三面川の河口がある。三面川の河口の対岸には、本日のゴールである藤波温泉のホテルが連なっているのが見える。
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 しかし、ここにゴールするにはまずこの丘を下り、三面川を瀬波橋まで遡って渡り、再び海岸に出なければならない。瀬波橋からは、上流側にJR羽越線の鉄橋越しに村上市の中心部が望めるが、時刻は16時少し前であり、とてもここへ寄って行く余裕はない。
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 瀬波橋から三面川右岸を海岸まで出たところに、終戦時に進駐軍がここの海岸に上陸し、物資の荷揚げを行ったことを記す石碑が建つ。
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 瀬波橋からゴールのビューホテルまであと1時間かなと思ったところが、実際にホテルに到着したのは5時半少し前であり、かなり疲れた。
 しかし、このホテルの部屋は全室海に面しており、各部屋から日本海に沈む夕日が眺められる。また大浴場からも夕日が眺められ、これで、本日の疲れもだいぶ癒された。
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 夕食に、鶴岡の地酒である栄光富士を飲む。さっぱりした口当たりだが、しっかりした味と感じた。
 毎日美味いものを沢山食べていたので気になっていた体重は、64.6kgで、殆ど増えていなかった。やれやれである。
by pxk11571 | 2009-03-01 09:51 | 紀行文